Jホラーの巨匠・高橋洋さん。
『女優霊』『リング』でJホラーブームに火をつけ、その動きは今や世界にまで広がっています。
そんな高橋さんが出演したある深夜番組にて、
霊能力者を集めいろんなホラー映画を観てもらい、
「どれが自分が見ている幽霊に近いか」と尋ねたところ、
全員がある映画の同じシーンを指し示したというのです。
Jホラーブームの火付け役となった高橋洋さん
映画『リング』より画像キャプチャー
高橋洋さんという方をご存知でしょうか。
映画『女優霊』や『リング』の脚本を担当された方で、
2004年に『ソドムの市』で映画監督デビューをはたし、
現在、監督5作目となる『霊的ボリシェヴィキ』が劇場公開されています。
この記事を書くにあたって『リング』を改めて観賞しなおしたのですが、20年前の作品とは思えないほど演出のセンスがずば抜けていますね。
不気味な映像で不安を掻き立てる「呪いのビデオ」
歪んだ顔の写真
一週間後に訪れる逃れられない死
史実をベースにした超能力実験
不義を隠蔽するために殺された子ども
「死と再生」を想起させる井戸からの生還
解除されたはずなのに解けない呪い・・・
「テレビから貞子が抜け出すシーン」は、今でこそネタ扱いされてしまっていますが、公開時は劇場内で男性客からも悲鳴があがるほど怖いシーンでした。
それほどまでに『リング』の影響は大きかったのです。
最近は海外の心霊動画にも、白い服を着て長い髪を前に垂らした「貞子スタイル」の幽霊が登場するようになっています。
『リング』の公開後、Jホラーブームが起こります。
そんな折に、高橋さんはある深夜番組に出演しました。
その番組は幽霊が見えると語る霊能力者を集め、いろんなホラー映画を観てもらい、
「どれが自分が見ている幽霊に近いか」
と尋ねてみるというものでした。
参加した霊能力者全員が指し示したのが
黒澤清監督の『降霊』だったのです。
黒澤清『降霊』
映画『降霊』より画像キャプチャー
『降霊』は黒澤清さんが脚本・監督を手がけた作品です。
1964年の英国映画『雨の午後の降霊祭』をリメイクしたもので、1999年にTVドラマとして制作され、その後劇場公開されました。
ネタバレしない程度にストーリーを紹介すると、
効果音技師の克彦(役所広司)と純子(風吹ジュン)の夫婦は、郊外の一軒家につつましく暮らしていました。
純子には霊を感じるという特殊な力がありました。
ある日、少女誘拐事件が起こります。
しかし身代金の受渡しに失敗した犯人は逃走中に事故で意識不明となり、さらわれた少女の行方もわからなくなってしまいます。
そこでかねてから純子の力に興味を持っていた大学院生・早坂(草彅剛)を通して、警察が彼女に協力を求めてきました。
行方不明になった少女を探してほしい、と。
少女の行方を捜す純子。
ところが少女は克彦の車の中から発見されました。
犯人から逃亡した際、偶然居合わせた克彦の仕事用ケースに隠れていたのです。
このままでは犯人にされてしまう――
その時、純子はある計画を思いつきます。
そうして二人は平凡でも穏やかだった人生から道を踏み外し、運命を狂わせて行くのです。
もともと2時間のTVドラマとして制作された作品ということもあり、
ストーリー展開や登場人物の行動には、「?」がつく点がたびたび見受けられます。
ですが幽霊や恐怖を描く演出は見事というしかありません。
ホラーというと、残酷なシーンや驚かせて絶叫を誘う演出が多い中で、
背後に感じる気配
ふと耳に入る物音
そういった日常に潜む恐怖が味わえる作品となっています。
霊能力者には幽霊はこう見える
『降霊』に登場する幽霊で、もっとも有名かつ恐ろしいと思うのはファミレスのシーンでしょう。妻の純子が「生活を楽にしたい」とファミレスにバイトを始めるのですが、男性客に憑いてきた霊を目撃してしまい、結局1日でバイトを辞めてしまいます。
この他にも、物言わず、ただそこに静かに佇んでいるだけの霊の姿が描かれています。
そして先述した深夜番組で、「自分が見ている幽霊に近い」と霊能力者全員が指し示したのがこのシーンです。
映画『降霊』より画像キャプチャー
役所広司さん演じる克彦の後ろにある、窓に少女の霊が映る場面。
ちなみにどうやって撮影したのかというと、人の写真を窓に貼り付けただけなのだそうです。
”この世のものでない存在”は平面に見える?
人の写真を窓に貼り付けたものが、霊能力者の見ている幽霊に近い。これは「幽霊は平面に見える」ということでしょうか。
確かに心霊写真には、質感や生命力を感じさせない霊と思しきものが、平べったく写っていることがあるように感じます。
以前の記事(幽霊が映りこんでしまった心霊PV・MV )で紹介したこの写真にも、霊と思しき不思議なものが平べったく写りこんでいます。
「平面に見える」と聞いて、私はある写真のことを思い浮かべました。
コティングリー妖精事件です。
コティングリー妖精事件とは、1916年に英国にて子どもたちが妖精と出会い、その様子を写真に写したと言われているものです。
この不思議な写真は、シャーロック・ホームズで知られる作家のコナン・ドイルによって、世間に広く知られるようになりました。
その後、当時は子どもだった撮影者により、妖精の写真は捏造であったことが明かされます。
そのトリックは、妖精の絵を切り抜いて並べ、あたかも妖精と触れ合っているように見せるという、極めて単純なものでした。
トリックの手法だけ見ると『降霊』の窓に映った霊のシーンの撮影方法と同じなのです。
ちなみに――
写真は捏造でも、妖精と出会ったことは嘘ではない。
そして1枚だけはトリックではなく本当に妖精を写したものだと語っています。
▼ 本物の妖精を写したといわれる写真

普通に考えて、もはやその言葉を信じる者はいないでしょう。
ですが、もしもその言葉が真実なのだとしたら・・・
平面の絵で、妖精を撮った写真を再現してみせたのだとしたら・・・
窓に貼り付けた写真のように、霊や妖精といったこの世のものではない存在は平面に見えるのかもしれません。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。