ガリバー衛星

ガリバー旅行記

(画像出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/ガリヴァー旅行記)

イギリスの風刺作家、ジョナサン・スウィフトは、1726年に寓話『ガリバー旅行記』を執筆しました。

この世界的に有名な古典小説について、不思議な話があります。

 

当時はまだ知られていないはずの、火星の衛星に関する記述があるというのです。






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ガリバー旅行記とは

ジョナサン・スウィフト
(画像出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/ジョナサン・スウィフト)

ガリバー旅行記の正式なタイトルは

『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記4篇』

といい、全4篇から構成されています。

第1篇 リリパット国渡航記(小人の国)
第2篇 大人国(ブロブディンナグ)渡航記(巨人の国)
第3篇 ラピュータ、バルニバービ、ラグナグ、グラブダブドリッブおよび日本への渡航記(飛島)
第4篇 フウイヌム渡航記(馬の国)

 

最も有名なのは第1篇の「小人の国」のエピソードですね。

概ねの児童書では、第2篇までしか収録されていません。

ですから、全部で4つの物語から構成されているとは、存外に知られていないのではないでしょうか。

 

火星の衛星に関する問題の記述は、第3篇 空を飛ぶ島ラピュータを訪れた時のエピソードに書かれています。

 

空飛ぶ島ラピュータ

ガリバー旅行記 ラピュタ
(画像出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/ガリヴァー旅行記)

ガリバー旅行記の第3篇で、漂流したガリバーは空飛ぶ島ラピュータに助けられました。

 

旅行記によれば、ラピュータ島は日本近海に浮いており、直径7.25キロメートル、厚さ275キロメートルの円形の島であるとされています。

底部にある巨大な天然磁石の磁気によって、磁鉄鉱の豊富なバルニバービ国の領空を自在に飛行することができるとされています。

ラピュータの全市民は優秀な科学者。

数学・天文学といった様々な学問を修め、天才的な頭脳を持っています。

 

しかし住人は、誰もが学問について思考黙考しているため、いつも上の空。

まともに歩いたり話したりできないため、目や頭を叩いて正気に戻す「叩き役」と呼ばれる召使いを従えているのだと、ラピュータで暮らす人々を描いています。

ガリバー衛星

この時、ラピュータの人が持つ天文知識を説明したシーンに、問題となる記述があります

「火星の周りを回る二つの衛星がある。

内側に位置する衛星と火星の中心部の間の距離は、火星の直径のちょうど三倍に相当する。

外側に位置する衛星の場合は五倍である。

前者は10時間かけて火星の周りを公転し、後者は21時間半かけて公転する。」

 

ガリバー旅行記が出版された1726年には、火星の衛星フォボスとデイモスはまだ発見されておらず、この記述は当時の科学では知りえなかった知識です。

 

この2つの火星の衛星が発見されるのは出版から150年も後の1877年のこと。

天文学者・アサフ・ホールが、屈折望遠鏡で火星の衛星を発見しました。

 

これはつまり、151年も前に火星に二つの衛星があるという事実を、作者のスウィフトが知っていたという事になります。

さらに不思議なことに、火星の二つの衛星は、スウィフトが小説の中で述べたとおりの軌道を描いていたのです。

 

考察

はたしてスウィフトは、当時では知りえないはずの知識をどうやって知ったのでしょうか。

 

アメリカの天文学者カール・セイガンは、スウィフトがドイツの天文学者ケプラーから知識を得たのだろうと推測しています。

ケプラーは惑星の動きの法則を発見した人物として知られています。

 

また、スウィフトが生きていた時代、木星には4個の衛星が発見されていました。(現在は67個)

地球には、月という衛星が1個あるわけですから、地球と木星の中間にある火星は、間をとって2個だろうという説があり、天文学者ティコ・ブラーエもそのように考えていました。

つまりスウィフトが旅行記で記述したように、実際に火星の衛星が2個であったのは、単なる偶然の一致にすぎないのです。

 

あとがき

火星の衛星とその奇妙な動きについて指摘していたスウィフトに敬意を表し、フォボスのクレーターには本作に関する人物の名前が、ダイモスのクレーターにスウィフトの名が与えられました。

衛星の数が一致しているのは偶然かも知れません。

 

ですが内側に位置する衛星フォボスは火星の表面から6000キロの位置まで近づくという驚くべき軌道を描いて周っています。

フォボスは自然の衛星のなかで唯一、主天体の自転速度よりも公転速度が速い衛星なのです。

今日でさえ、天文学ではフォボスの謎を解けないでいます。

 

大まかとはいえ、この不思議な天体の軌道まで記述できたのも、果たして偶然なのでしょうか?